第4話:「ご契約内容のお知らせ」に凍りついた日。

前回、いつでも都会へ移住できるようにと、部屋の片付け(ダウンサイジング)を始めた話をした。

とはいえ、片付けは一朝一夕には終わるはずもなく、部屋の中はいまだ荷物と格闘中のカオスな状態である。

そんな中、ポストに1通の手紙が届いた。
保険会社から1年に1度送られてくる、お馴染みの「ご契約内容のお知らせ」である。

普段なら「はいはい、今年も変更なしね」と目を通さずに引き出しにしまってしまうような書類だが、
身辺整理の意識が高まっていた今の私は、何気なくその封書を開き、中身をじっくり眺めてみた。

そして、特定の項目に目が留まった瞬間、文字通りフリーズしてしまった。

死亡保険金受取人:[ 亡き母の名前 ]
指定代理請求人:[ 亡き母の名前 ]

……全滅している。 母をおくり、おひとりさまになった私の防衛システムに、
とんでもない「仕様バグ(未修正の契約)」が残っていたことに、
その時初めて気づかされたのである。

もし今、私が急に倒れて意思表示ができなくなったら、
一体誰がこの保険を請求できるのか?
もし私が明日死んだら、このお金はどこへ行くのか?

身寄りのないおひとりさまにとって、
「受取人がいない契約」をそのまま放置しておくほど、
不気味でリスクの高いノイズはない。
私はここから、2つの保険に対して異なる「引き算」を実行することにした。

① 医療保険は「生きている自分のため」に維持する

まず、加入していた民間医療保険。
じっくり書類を確認したところ、死亡時の給付金が【無】のタイプだった。

つまり、この保険の本質は「死んだ後に誰かにお金を残すため」のものではなく、
「私が生きている間に病気やケガをしたとき、入院日額5,000円の医療費を自分で受け取るため」
の【生前保障】なのだ。

構造が分かれば、答えは一瞬である。解約する必要はまったくない。
自分が生き抜くための盾として、シンプルに維持すればいい。

私はすぐに保険会社のネットのマイページにログインし、
死亡受取人を「指定しない(空欄)」へとカチッと変更し、バグを修正した。
指定代理請求人も同じく「指定しない(空欄)」に設定できたのはありがたかった。

解約や変更のために、なまじ窓口に行ってしまうと、
「では受取人のいらない、ほかの投資商品を……」などと
別のノイズを勧められるリスクがある。
そうした危惧があったので、
すべてがネットだけで静かに完結できたのは、
おひとりさまにとって非常に快適なシステムだった。

② 介護保険は「システム破綻」に気づいてスパッと解約

問題は、もう一つの「民間介護保険」である。
認知症になったときが怖くて加入したもので、
介護状態になったら一時金200万円が支払われるという契約だ。
当時は「死亡保障もセットになっているから」と言われ、
渋々、母を受取人にして契約したものだった。

しかし、自分ひとりになった今、
この契約書を睨みつけながら冷静に考えてみると、
恐ろしい矛盾が浮かび上がってきたのだ。

まず、「200万円では、施設に入るためのまとまったお金としては全然足りない」という冷徹な現実。
そして何より、「私が認知症になったとき、あるいは死亡したとき、
私の代わりにこの200万円を請求して受け取ってくれる人は、もう誰もいない」
という致命的なシステムバグである。

受け取れない保険に、毎月せっせと保険料を払い続けるほど馬鹿げたことはない。

さらに、私はもうすぐ65歳になる。
65歳になれば、公的介護保険のシステムも「第1号被保険者」へと切り替わり、
国や自治体のセーフティネットが本格的に動き出す。

「民間保険の200万に頼るより、手元の現金を残し、公的システムを使いこなす方が圧倒的にロジカルだ」

そう確信した私は、この介護保険をネット上で「解約」へシフトすることを決意した。

ネットでの手続きと仕分けを終え、画面を閉じた私の脳裏に、
もう一つの「緑の冊子」の存在が思い浮かんだ。
長年加入している「coop共済(コープ共済)」だ。

「ネットの画面上では処理しきれない、あの複雑に絡み合った特約の糸を、
いよいよ解きほぐす時がきたか……」

ここから、私のお金の整理術は、ネットの世界を飛び出して
「窓口への直接突撃」という、リアルな大格闘へと発展していくことになる。

(第4話・了)